患者の皆様によりそった医療を心がけています

苺(いちご)状血管腫の治療

苺状血管腫は、未熟な毛細血管が増殖してできる赤あざです。出生時は平らであまり目立ちませんが、生後まもなくから(数日から数週)急激に盛り上がってくる赤あざで、その外観から苺状と名付けられた血管腫です(左写真左参照)。放置していても年月とともに自然に小さくなっていくので(5歳から10再くらいで自然退縮)、従来は何もせずに様子を見ていればよいとされてきました。しかし自然に小さくなるとは言っても、全ての苺状血管腫があとかたもなくきれいに消え失せるわけではありません。外観的に目立つきずあと(不全退縮)となってしまうことも少なくないのです(左写真右参照)。この疾患に対してはレーザー治療が積極的に行われるようになり、かなりの効果が得られています。すなわちまだ盛り上がる前の比較的平らな早期の段階でレーザー治療をすることで、血管腫を盛り上がらせることなく、退縮に追い込むことができます。悪化しないうちに早く退縮させることができれば、結果的にあとも小さく目立たなくなるわけです。またたとえ一旦盛り上がってしまったものに対しても、レーザーはその退縮を速める効果があります。なお、まぶたや唇、鼻孔部や肛門部などに生じたものではそれぞれ視力や呼吸に障害を与えたり、腸閉塞を来す危険性も有ります。その場合は2016年に保険適応となった、ヘマンジオルシロップRの内服薬が適応になります。このお薬は、もともと心臓疾患に使われているβブロッカーというお薬を有効成分にしているので、投与前に循環器系の精査をすることが必要です。小児科との連携が必要になります。さらに、レーザー治療後に赤みが引いた後でも皮膚の盛り上がりが残ることもありますし、血管が深すぎてレーザーが届かないこともあります。そのような場合には外科的な手術などを必要とすることもあります。

症例1

胸に生じた苺状血管腫
苺状血管腫の不全退縮

症例2

まだ平らな時期の苺状血管腫
期治療1年後

症例3

盛り上がる途中の苺状血管腫
レーザー治療後6ヶ月

症例4

すでに隆起している苺状血管腫
レーザー治療後1年

いちご状血管腫の色素レーザー治療をお受けになられる患者さんへ

インフォームドコンセントフォーム(抜粋)

Candela V-beam II 使用・大西医院

苺状血管腫には、Dye(色素)レーザーを用いた治療が有効です。この用紙はレーザー治療を受けるかどうか、患者さんとご家族が意志決定をするための、参考資料および治療同意書です。これをよくお読みになった上で疑問に思われることがありましたら、どうぞ遠慮なくご質問ください。
このレーザー治療器は、ほとんどの赤あざで有効性があり、多数の患者さんに満足のいく改善が得られていますが、苺状血管腫の場合には、病変の状況によって治療方針が異なります。すなわち、早期の苺状血管腫でまだ病変が平らな場合は、レーザーをこまめに照射して、盛り上がりを防止しつつ病変を退縮に追い込みます。一方で、すでに完成された盛り上がった苺状血管腫では、治療間隔を若干長めに設定し、本来の自然退縮を早めるような目的になります。具体的には、早期治療(まだ平坦な病変)では2週間に1度程度の頻度で10回前後。すでに盛り上がってしまった病変では、2週から1ヶ月おきに5~10回程度の治療が必要です。治療の回数や頻度には個人差が有り、全ての患者さんに同じ臨床効果が得られるわけではなく、経過も異なるため、全体に年単位の長い治療期間が必要とお考えください。また病変によっては色が薄くはなっても完全には消えない場合や、まれに効果が少ないこともあります。このレーザー治療は1993年に厚生省から高度先進医療としての認定を受け、1996年からは健康保険が適応されていますが、保険上の制約として3ヶ月に1度しか適応されません。したがってその間の治療は全額自己負担となります。なお私共は1990年から血管腫のレーザー治療を行っています。

Q1:血管腫の色素レーザー治療とは?

 レーザー治療とは、皮膚表面から約1.5mmの深さまで貫通する強力な単一波長の光(レーザー光)を、あざに照射する方法です。色素レーザーの光は標的である皮膚表面の血管(厳密には赤血球)を瞬間的に焼灼しますが、周囲の正常皮膚組織へのダメージが少ないのが特徴です。この治療は単純性血管腫、毛細血管拡張症、クモ状血管腫、苺状血管腫、その他の皮膚の赤アザに有効で、それらの色を薄くしたり消すことができます

Q2:レーザー治療の副作用や合併症は?

  1. 痛み:当院では治療前にレーザーを照射する場所に、特殊な麻酔クリームを塗っています。そこを約1時間ラップすることで、麻酔の効果を高めます。しかし麻酔のかかりやすさは患者さんによって異なるので、治療中に痛みを感じる場合もあります。しかしこの痛みは一過性です。なお病変が広範囲の場合には、全身麻酔が必要です。その際は当院の関連施設(虎の門病院皮膚科)で入院・治療していただくことになります。
  2. レーザー照射後の状態:レーザー治療直後には照射部位の腫脹(はれ、むくみ)が生じます。これは特に眼瞼、頬部などを照射した場合に目立ちますが、一時的なもので、それ自体は痛くありません。この腫脹は3日ほどで消えますが、その間は消炎剤の内服や照射部位を氷などで冷やす処置が必要です。またしばしば照射部位には水ぶくれが生じます。水ぶくれは7から10日で治り、うすいかさぶたになりますが、それまでの間は軟膏の外用や保護が必要です。
  3. 紫斑:レーザーを照射した直後から、赤あざは青紫黒色調に変化します(全例)。 これはちょうど打ち身のアザのような色調です。これはレーザー照射に基づく自然な経過で、照射後7日から20日程度続き、その後消えていきます。 約30%の患者さんでは、これが消える過程であざの色調が褐色に変化することがあります。
  4. 一過性の色素増強(褐色に変色):レーザー治療の1ヶ月後前後、時に照射部位が茶色っぽくなります。これは日焼けした場合や色黒の肌の患者さんには特に起こりやすいのですが、もともと東洋人ではなりやすい反応です。 これはレーザー治療の自然な反応で、小さな切り傷や擦り傷、やけど、にきびのあとなどが一旦しみのようになるのと同じです。 大多数の患者さんでは 3~6ヶ月で軽快しますが、これを最小限にするために、レーザー治療を始めた部位は少なくとも6ヶ月間は日焼け止めクリームを用いた日光の遮断と、ビタミンCなどの内服が必要です。
  5. 皮膚の脆弱化:レーザー照射部位やその周辺の皮膚は、健常な部位と比較して外力に弱くなっています(脆弱化)。照射部位をこすったり引っ掻いたりすると皮膚が剥げ落ちてしまい瘢痕(きずあと)を生じます。 レーザーを照射後、皮膚がしっかりするまでの約1週間は照射部位を慎重に扱うことが大切です。入浴・洗顔に関しても医師の許可を得てからしてください。
  6. 瘢痕化(きずあと):肥厚性瘢痕(傷跡の肥大化)やケロイド(赤く盛り上がった きずあと)を含めて、レーザー照射部位が瘢痕になるのは極めてまれです。しかし前述のようにかさぶたを無理にはがしたりすると起こることがあります。瘢痕化を予防するため、治療後は別紙『レーザー治療後のケア法』をよくお読みになり、照射部位をていねいに扱ってください。
  7. 病変の残存:早期の平らな苺状血管腫にはこの治療法は非常に有効ですが、すでに大きくもり上がった苺状血管腫には効果が少ない場合もあります。                   

Q3:レーザー治療を行わなかった場合は?

レーザー治療のほとんどは整容的な見地から治療が行われるもので、医学的に重篤な危険性のある病気ではありません。苺状血管腫は学童期までに多くは自然に退縮(ちぢむ)しますが、目立つ傷跡となってしまうことが少なくありません。

Q4:レーザー以外の治療法は?

外科的に切除し皮膚を移植する方法もあります。あざの場所によっては、入院の上、内服療法をお勧めすることもあります。