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インフルエンザについて

インフルエンザとは?

風邪(かぜ)とインフルエンザは同じではありません。かぜは、もともと、風邪症候群というべき症状からつけられた名前で、くしゃみ、鼻水、鼻詰まり、咽頭痛、せき、痰といった呼吸器症状と、発熱、頭痛、腰痛、全身倦怠といった全身症状、時に下痢や腹痛などの消化器症状を伴います。そして、約1週間の経過で治癒に向かう疾患全般をさしています。原因としては、マイコプラズマやクラミジア、細菌といった病原微生物によりますが、80から90%はウイルスによって起こるので、医学的には、ウイルスによって起こる急性の呼吸器感染症(ウイルス性急性呼吸器感染症)と位置づけられています。原因ウイルスには、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、インフルエンザウイルスなど、様々な種類があります。つまり、インフルエンザウイルスとは、風邪症候群の起因ウイルスのひとつなのです。

インフルエンザの症状の特徴として、発熱および全身症状が強いことがあげられます。しかしながら、同様の症状は他のウイルスでも起こりえますし、同じウイルスでも人によって異なった臨床症状を呈することがあります。すなわち、症状からは、原因ウイルスを特定することは厳密にはできないと考えられます。

たいていのウイルス感染症には特効薬がありません。しかしインフルエンザウイルスに対する薬は近年何種類か開発され、現在日本でも使用されています。風邪の原因がインフルエンザウイルスだとわかれば、治療方法もあるわけですから、その原因ウイルスを特定することは大変重要だと考えます。

Q. 寒いとインフルエンザにかかるの?

A. インフルエンザウイルスは、やや低温、低湿度といった冬の気候にマッチした環境が好きなようで、たしかに寒い冬にインフルエンザは流行します。でも寒いからといって必ずインフルエンザにかかるわけではありません。南極越冬隊は、インフルエンザにはかかりません。(もちろん、「寒い思いをすれば、身体の抵抗力が低下するので、ウイルスに感染しやすくはなる」とは言えます。)インフルエンザはあくまでも感染症ですから、必ず「誰かから」もらっているはずです。現在のオフィスや一般家屋のように密閉性が良く、多くの人が集って長時間過ごすような環境は、飛沫感染をおこすインフルエンザにとって、とても流行しやすい環境といえます。米国の感謝祭やクリスマス休暇など冬の休暇の後、子供たちが学校へ行くようになると本格的な流行が始まる、と言う人もいます。つまり、寒いからといって、暖房を効かせて、気密性の良い部屋に皆で集っていると、インフルエンザウイルスにとって好都合の、「低湿度、高気密、多くのターゲット(!)」という環境を作り出してしまうことになります。

空気の湿度とインフルエンザウイルスの生存率をみると、相対湿度50%でウイルスの生存率が急速に低下することが示されています。(下グラフ参照)暖房の効いている部屋では、加湿器を用いことがインフルエンザの予防には大事です。(毎日タンクをきれいにして水を取り換えることを忘れずに!)また、時には窓を開け放って、一酸化炭素や二酸化炭素が溜まりやすい室内の空気を入れ換えることも必要です。

湿度とインフルエンザウイルスの生存率 (1961年Harperらによる)

Q. インフルエンザを予防するには?

A1. ワクチン: 流行期前には、インフルエンザワクチンの接種が有効です。特に、高齢者ーなかでも集団保育を受けている幼児や学童期の子供と同居している方、合併症をもっている方(特に呼吸器疾患、心疾患、糖尿病)、免疫機能の落ちている方(免疫抑制剤、ステロイドの服薬など)は、接種しておいたほうがいいでしょう。流行期の前に接種をすませておくと、流行期にはすでにインフルエンザウイルスに対する免疫が確立しています。この場合、たとえウイルスが身体に侵入しても、症状が出ないか、出ても軽度ですむと言われています。

子供の場合、学童期以降でないと、ワクチンによっておとなと同程度の免疫能は持てないと言われています。しかし、集団保育を受けている場合や、高齢者と同居している場合、年下の兄弟がいる場合には、たとえ有効率が低くてもワクチン接種の意義はあるでしょう。子供に接種することで、子供自身の発症率にはあまり変化が無くても同居している他の家族の発症率は下がるようです。

米国では、毎年、インフルエンザの流行により多額の経済的損失があると試算されています。日本では同様の数字を見たことはありませんが、仮に100万人の給与所得者が感染して3日間休んだとすると、それだけで約470億円の損失となります。(平均年収約500万円で計算)これに医療費などなどが加わると、もっと大きな額になるはずです。本格的な流行となると、感染者の桁が違ってくるので、国全体としても大きな損失となってくるはずです。インフルエンザに罹る前にワクチンで予防することが、ビジネス上のリスクマネジメントという観点でも重要なのではないでしょうか。
*本年度のインフルエンザ予防接種の予約を開始いたしました。

A2. 手洗い、うがい、マスクー流行期には、この3点はやはり基本でしょう。多くの人は無意識のうちに鼻や眼を触っています。特に鼻はインフルエンザウイルスが侵入しやすい経路です。インフルエンザウイルスは、鼻の奥ののどにつながる部分に多くいます。いったんウイルスが粘膜に付着すると、1時間以内に身体に侵入できるので、うがいだけでウイルス侵入を防御するのは不可能ですが、ウイルスによって弱った粘膜からの他の病原菌が侵入すること(二次感染)を防ぐには有効です。マスクはもう感染してしまった人が他の人へうつさないようにするのに有効でしょう。また、吸う空気を加湿できるので、咳こんだり、痰の喀出を頻繁にすることによって弱ってしまった気道粘膜を保護することができます。

A3. 加湿器と換気ー別項でも述べましたが、インフルエンザウイルスは湿気に弱いものです。ホットカーペットなどを用いて室内を暖めている場合など特に乾燥しやすいので、加湿器を使用して下さい。また、時々換気して室内の空気を入れ替えることを忘れないでください。

A4. 休息ーこじらせないためには、お休みすることが大事です。インフルエンザを甘くみて、風邪薬や解熱剤でごまかしながら働きに行くと人にうつすだけでなく、重篤な二次感染などを起こして、結局長引かせることになります。インフルエンザと診断されたら、きちんと休んでください。食欲が無い場合は、無理をして食べない方が身体への負担は少なくなります。カロリーの高いアルカリイオン飲料や、コンソメスープ、繊維の少ない果汁などを十分摂って、水分とカロリーを補給して下さい。呼吸器疾患や心臓疾患などの合併症をもっている方の場合、早めに医療機関を受診して治療と指導を受けて下さい。

Q. インフルエンザの診断はどうやってするの?

A. つい数年前までは、医療機関の受診時にインフルエンザの確定診断を受けることは出来ませんでした。確定診断には約2週間かかったからです。現在、いくつかのメーカーから、受診したときに検査結果のでる診断薬が発売されています。(注:医療機関でしか扱えません。)

また、現在ではインフルエンザウイルスに対する治療薬が、数種類販売されています。インフルエンザウイルスのA型のみに有効な薬と、A型、B型両方に有効な薬があります。インフルエンザとの確定診断がつけば、症状、副作用、基礎疾患の有無、などの観点から治療法を選択することができます。

ただし、前述の検査法には、欠点もあります。たとえインフルエンザウイルスに感染していても、発症後約48時間までしかウイルスを検出することはできません。(これは大人の場合。子供の場合はもう少し長く検出できます。)以前インフルエンザに罹患したことのある大人の場合、インフルエンザウイルスに対する免疫反応が起こって、ウイルスが身体からどんどん排除されていくので、発症後、48時間以上経った時点では、検出できるほどウイルスが残っていないことが多いのです。確実に診断してもらって、正しい投薬を受けるには、高い発熱を伴う全身症状の強い「風邪」にかかったら、翌日には近くの医療機関を受診する必要があります。