太田母斑(Nevus of Ota)の治療
太田母斑は、ほほ・まぶた・額など(多くは片側)に生じる青から灰褐色調の母斑で、出生時からすでにある場合と、思春期前後からしだいに色が出てくる場合があります。皮膚の少し深いところにメラニン色素を持った色素細胞が増えている状態です。
この疾患はQ−スイッチルビーレーザーで治療します。レーザーは3ヶ月から6ヶ月おきに照射しますが、かなり色が落ちてくるまでには、少なくとも5回の照射が必要です。したがって根気強く粘り強い治療をすることが大切と言えます。治療に際しては、まずクリームの麻酔薬を患部に外用し、しばらくして表面が麻酔されてからレーザーを照射します。
症例1
症例2
Qスイッチレーザー治療をお受けになられる患者さんへ
インフォームド コンセントフォーム(抜粋)
NIC社製・Q-Switched Ruby Laserを使用したあざの治療
太田母斑・青色母斑(異所性蒙古斑他)・色素性母斑にはQ-スイッチルビーレーザー(以下Q-Ruby)を用いた治療が有効です。このフォームは、あなたがQ-Rubyによる治療を受けるかどうか、ご自分で意志決定をするための参考資料および治療の同意書です。この用紙をよくお読みになった上で、さらに疑問に思われることがありましたら、どうぞ遠慮なくご質問ください。
このレーザー装置は、ほとんどのメラニン系のあざ(青あざ・黒あざ・茶色あざ)において有効性があり、多数の患者さんに満足のいく改善が得られています。レーザー治療は5~6回あるいはそれ以上の回数が必要で、3~6ヶ月に1度の頻度でおこないます。治療の回数や頻度には個人差が有り、全ての患者さんに同じ臨床効果が得られるわけではなく、経過も異なるため、全体に年単位の長い治療期間が必要です。(太田母斑・色素性母斑・青色母斑では無効例はほとんどありませんが、一回の治療効果には個体差があります。)この治療法は1993年に厚生省から高度先進医療としての認定を受け、1996年からあざに対しては健康保険が適応です(色素性母斑を除く)。なお私共は1989年からあざのレーザー治療を行ってまいりました。昨年度当院では延べ約800件のレーザー治療を施行しております。
Q1:母斑のレーザー治療とは?
Q-Rubyレーザー治療は、表面から約1.5mmの深さまで貫通する特殊な光線(レーザー光)を皮膚に照射する方法です。Q-Rubyは標的である皮膚表面の色素(厳密にはメラニン)を瞬間的に焼灼しますが、メラニンに対する選択性が良く、周囲の正常な部分へのダメージを最小限にしたのが特徴です。これにより太田母斑・色素性母斑・青色母斑などのあざの色を薄くしたり消すことができます。
Q2:レーザー治療後の経過や一般的な副作用・合併症は?
- 痛み:当院では、治療前にレーザーを照射する場所に麻酔クリームを塗っています。さらにそこを約1時間ラップすることで麻酔の効果を高めます。しかし麻酔のかかりやすさは患者さんによって異なるので、治療中に痛みを感じる場合もあります。この痛みは一過性で、小学生以上の患者さんの多くは痛みに耐えられます。しかし、痛みが強い場合には注射による局所麻酔を追加することもあります。 特に眼瞼部(まぶた)では麻酔が効きにくいので注射を追加します。なお小さなお子さんで病変の範囲も広い場合は全身麻酔が必要です。その際は当院の関連施設(虎の門病院皮膚科)で入院・治療していただきます。
- びらん・水疱:レーザー照射直後は軽いやけどの状態に相当し、しだいに軽いびらんや水ぶくれが生じます。いずれも5から10日で治り、かさぶたになります。その間は軟膏の外用とガーゼやフィルムなどによる保護が必要です。
- 一過性の腫脹:レーザー治療直後から、ほぼ全例に照射部位の腫脹(はれ・むくみ)が生じます。特にまぶたでは内出血を伴うこともあります。このはれは3日前後で消えますが、その間は消炎剤の内服や照射部位 を氷のうやアイスノンなどで冷やす処置が必要です。内出血は10日前後で消えていきます。
- 皮膚の脆弱化:レーザーの照射部位やその周辺の皮膚は健康な皮膚と比較して外力に弱くなっています(脆弱化)。照射した場所をこすったり引っ掻いたりすると皮膚が剥げ落ちてしまい瘢痕(きずあと)になります。治療後皮膚がしっかりするまでの約1週間は、お化粧もできません。入浴・洗顔に関しても医師の許可を得てからとしてください。
- 一過性の色素増強(褐色に変色):レーザー治療の1ヶ月後前後から、照射部位はしばしば色が濃くなります。この反応は照射部を日焼けした場合や色黒の肌の患者さんには特に起こりやすいのですが、元来東洋人ではなりやすいものです。 これはレーザー治療の自然な反応で、小さな切り傷や擦り傷、やけど、にきびのあとなどが、一旦しみのようになるのと同じです。 大多数の患者さんでは 3~6ヶ月で軽快しますが、これを最小限にするために、レーザー治療を始めた部位は少なくとも6ヶ月間は日焼け止めクリームを用いた日光の遮断と、ビタミンCやトラネキサム酸などの内服治療が必要で、場合により脱色剤も併用します。しかし患者さんによってはごくまれに、増強した色素が6ヶ月以上消えにくい場合もあります。なおこの反応の予防にはケミカルピーリングが有用です。
- 色素脱失:同じ部位を繰り返して治療することにより、一部の患者さんに色素脱失(白色に変化)が生じる場合があります。色素増強と同じく色素脱失部位の多くは3ヶ月から6ヶ月でもとの色に戻りますが、戻らない場合もあります。
- 瘢痕化(きずあと):肥厚性瘢痕(傷跡の肥大化)やケロイド(赤く盛り上がった きずあと)を含めて、レーザー照射部位が瘢痕になるのは極めてまれです。しかし前述のようにかさぶたを無理にはがしたりすると起こることがあります。瘢痕化を予防するため、治療後は別紙『レーザー治療後のケア法』をよくお読みになり、照射部位をていねいに扱ってください。
- 病変の残存:レーザー治療の途中で色素が点状に再生したり、まだら・ぶち状になることがあります。この変化は特に扁平母斑でしばしば見られ治療の継続で消褪する場合と難治性の場合があります。
Q3:レーザー治療を行わなかった場合には?
レーザー治療を行える病変のほとんどは、整容的な見地から治療が行われるもので、患者さんが治療を希望されない場合でも、医学的に重篤で危険性のある疾患ではありません。あざの種類によっては加齢に伴い多少色調が変化することがあります。
Q4:レーザー以外の治療法は?
あざでは凍結治療や、外科的に切除し他の場所から皮膚を移植する方法もあります。